とりのおおこく‥
とりのおおこくには風が吹きません。
鳥たちも声を出しません。
代わりにきれいなピカピカな大冠と
聞こえない言葉をみな持っています。
小さな家が一羽に一つあって
小さな窓が一つついています。
家は明かりがつくと模様が透けて
夜はあちこちにランプがともったようです。
地面には夜のうちに空から落ちた星屑が沢山落ちていて
小さな足で踏むたびに音が鳴ります。
虹色のしずくの雨が時折降ります。
雨が降りだすとみな翼を広げ空を見上げます。
新しい色を身につけるために
新しい雨に染まります。
きれいな鳥たちのいるおおこくには
今日も風が吹きません。
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とりたちと記憶と雨‥
とりと記憶と雨の間はとても強く結ばれています。
ある日金色の雨のしずくがからだにあたると
とりたちは、記憶をなくします。
ただ、本当に大切にしていたものを残して。
名前も、家も、今していたことも。
でもそれはきまりなので、誰も責めることはありません。
そのかわり、とりたちは、
大切な相手に忘れられてしまわないように
努力をします。
大切な相手を忘れてしまわないように
毎日愛をそそぎます。
それがいつやってくるかわからないから、
後悔のないように毎日を暮らします。
でももしも忘れられてしまったなら、もう一度
新しい記憶の中に入り込んで、
次は覚えていてもらえるように努力をします。
とりたちの日々は、そうやって、
過ぎていきます。
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透明な水の底..
時々
とりは森へ来て
小さな池をのぞきます。
なんてなんて 透明な水の底。
本当はこの池に沈みたい。
「なぜ、僕を忘れたのだろう。」
「なぜ、僕は思い出せないのだろう。」
誰にもいえない、
誰にも救えない悲しみをもって。
するとゆらゆらと黒い魚がうかびでて、
悲しみをひとつひとつ、食べていく。
まるで月のかけらでも食べるみたいに。
そうしてとりの心がほんの少し軽くなる頃
より透明な水の底へ帰ります。
とりは、大切な相手のもとへ戻ります。
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魚のこと..
魚は 鳥の悲しみについて思います。
なんてあたたかい
なんてきれいな悲しみ
ひと口食べるたびに
からだがキラリ、光るような気がします。
水もどんどん澄んでいく気がします。
魚は透明な水の底でいつもひとり。
何もつらいと思ったことはないけれど
悲しみのうまれる場所はわからない。
鳥になりたかったな、
ふと思う。
どこへでも行ける。
誰にでも会える。
鳥になりたかったな。
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