物語ができたわけ

橋村野美知 飾り瓶 黒豆にて
橋村野美知 飾り瓶 黒豆にて

 大作氏伊勢丹7日目。残すところ3日です。昨日はゴトゴト電車に揺られ、東松山の黒豆まで行ってきました。思ったよりも遠くない、と横浜から行った私は思いました。電車を降りてしばらく歩くと、久しぶりに傍らに田んぼ。懐かしいいいにおいがして、幸せな私です。「野美知」は「あぜ道」から来ました。田んぼのあぜ道が大好きだった母が「のみち」とつけ、父がきれいな漢字をつけてくれました。

 この間母が出てきたので今日は父の話。父は病気のために、不確実な記憶に囲まれて生きています。私のことだってよくわかないし、自分の名前だって定かじゃない。それでも母はよく「名前は?」と聞くので私は名前なんて忘れたっていいじゃないと言います。それでも母はこりずにいつも「名前は?」。この間父が「僕の名前は一つしかないのだから、そんなに何回も言えない。」と言ったそうです。わかりますか?「リンゴは一つしかないのだからそんなにあげれない。」ということだと私は解釈しました。なんて素敵なことを言う父。素敵な言葉は誰にも負けません。だから別に私のことなんかわからなくたっていいじゃないかって本当に思います。大丈夫。愛されて育ったのだからそれでいい。そんな思いが「とりのおおこく」を書いたきっかけです。n